暮らしに長く寄りそえる器を
陶芸作家 和田麻美子さん
ニュアンスのある色合いとふわりとやさしいたたずまいで
暮らしにさりげなくとけ込む和田麻美子さんの花器は、
松本城のすぐそばにある工房で作られています。
faber LABORATORIOで開催中の
「和田麻美子 陶展」では、色もかたちもとりどりの花器が
美しい花やドライフラワーに彩られ、表情ゆたかに並べられました。
誰の作品にも似ていない、
すぐに和田さんのものだと分かる独自の作風はどのように生み出されたのでしょう? そんな質問に、
「自己流なんです。師匠の元で修行した経験がないから、かな?」と和田さん。
大阪芸術大学のご出身ではあるものの陶芸はまったくの専門外で
趣味的にはじめてのめり込んでいかれたのだとか。
その後、美濃焼のメーカーに就職して、
器のデザインやサンプル製作に携わるも、
自分が作りたいものを作りはじめたのは、2004年に独立してからなのだそう。
「イメージ画を描かず、ろくろの前に座って
手が動くままに感覚的に成形していたら、今の作風になったんです。
よし、このライン、という瞬間があって、かたちが決まるかんじで。
手が小さいので作品のサイズも自然と小さなものが多くなりました。
ひとつだけ、はじめから考えていたのは、
削りかすがあまり出ない方法にしようということ。
通常はろくろで成型する時に表面をたくさん削るんですけど
それは、なんだかもったいないなあと思って」
良い方法はないかと考えた末に、“マル秘”のやり方を思いついたのだそう。
ろくろで成形する時に、その“マル秘”の技法を使うことによって
和田さんの作品のうっとりとするほど
すべすべとした質感が生まれるのです。
そんな和田さんの花器の
女性らしいたおやかなフォルム、
釉薬の混ぜ合わせから生まれるやさしい色合いは
オブジェとしても存在感を放ちます。
花を活けずにインテリア雑貨として楽しむ方も多いようで……。
「どんな風にお花を生けたらいいですか? と聞かれることがよくあって。
せっかくなら花器としても楽しんでいただきたいので
ご提案の意味でも、今回はお花と一緒に飾ってお見せするかたちにしました。
飾るのは剪定した枝葉、切り花、野花と、なんでもよいのですが、
一輪挿しは口が狭く、酸素が入りづらいので、
生花の場合はこまめに水を入れ替える必要があるんです。
なので、わたしのおすすめはドライフラワー。手入れも楽だし」
と和田さん。
そんなことから、今回の展示会では
六九商店街にある「 花屋 ことの葉 」さんの
ドライフラワーやお花を花器にそえる展示スタイルに。
「ことの葉さんをのぞくたびに
素敵なお花やドライフラワーを扱っておられるなあと惚れ惚れしていて、
思いきって今回の展示会でご一緒できないかお誘いしてみました。
ことの葉さんの、素人ではなかなかできない
まるで生花のようなドライフラワーと、個性的なお花に彩られて
花器の新しい表情をお見せできた気がします。
なにより会場が華やかになって、わたし自身がわくわくしました!」
このような展示会の時、和田さんが心がけていることがあるそうです。
「同じ会場で展示会をする場合は、前回とはちがう何かを
見せられるようしたいと思っています。
今回の展示会では花とのコラボがそのひとつ。
そしてもうひとつが、新作のマグネット付き花器のお披露目です」
マグネット付きの小さな花器は、猫のいるお家でも
冷蔵庫などの壁面に気軽に飾ってもらえるように作ったそう。
猫を2匹と犬を1匹飼っている和田さんの日常から生まれたアイデアです。
これなら何かの拍子に落とされるという心配もありませんね。
いつも新しいことを表現していきたいという和田さん。
定番に見える一輪挿しにしても、年月を経るごとに
口の狭さやフォルムが変わったりと、少しずつ進化しているそう。
これから先、何かやってみたいことはありますか?と聞いてみると
「わたしは無駄が本当にきらいで、
普段の生活でも食材やものを使い切るということを大切にしているんです。
もちろん製作する中でも、少しだけ出る粘土の削りかすはもちろん
釉薬をすすいだ水まで捨てずに全部再生して使い切るようにしています。
わたしの作品も長く暮らしに寄りう存在になってくれれば、という思いから
ゆくゆくは修理が受けられるようにしたいと考えています。
それから海外からのオーダーも増えてきたのでそれにもお応えしたいと思いますし、
いつか、工房の入り口の小さなスペースにお店を開ければとも……」
と、まだまだやりたいことが尽きないご様子。
新しい表現方法を考えているうちに、
そこからまた新しいアイデアをひらめいたり。
和田さんの素敵な器たちは、
そんな繰り返しから生まれてくるのかもしれません。