Vol.12「体質って変わらない?」

Text : 田中のり子

先日ふと気づいたこと。「そういや最近、あんまり鼻をかんでいないなあ」。冬の乾燥シーズンも、花粉症の時季も、それほどティッシュを使っていなかった。……などという感慨にふけるほど、かつての私はティッシュ消費量が半端なかった人間なのです。

小学生の頃はよく鼻をずるずるさせていて、ポケットティッシュでは足りなくて、ランドセルを入れるロッカーにボックスのティッシュを置いていたくらい。大人になっても枕元にはいつでもティッシュ、朝起きると使用済のものが45枚周辺に散らかっているような感じでした(きたない話でスミマセン)。大学生になってから急にぜんそくを発症したので、痰もよく出ました。社会人になってひとり暮らしを始めたときも、しょっちゅう箱入りティッシュを買いに行っていたイメージです。当然、鼻もガサガサ。もうこれは「体質だから仕方ないな」と30年近く思っておりました。

この鼻水や痰の正体は何でしょう? 漢方を勉強していると、体内の余分な水分が体内の不要物と結びついてできた、どろどろネバネバした「痰湿(たんしつ)」の一種と習いました。これは本来体に必要な水分(=津液)が、流れが悪くせき止められて過剰になっているのが原因で、鼻水や痰以外にも、「むくみやすい」「体が重くだるい」「めまいがある」「軟便や下痢」などの症状を引き起こす原因になるらしいのです。当然ながら、私も上記の項目がすべて当てはまるような体質でした(笑)。湿度の高まる梅雨どきは、「痰湿」がさらにたまるせいでしょうか、とにかく体調が悪かったです。

この「痰湿」がたまる原因は……持って生まれた体質なのだろうなあと思いきや、実は食生活が大きく関わっているのだそうです。例えば冷たいジュースやビール。甘いお菓子や脂っこい食べ物。暴飲暴食で胃腸を弱らせた結果、水分がスムーズに排出できないため、どろどろネバネバを体内に生み出してしまうのです。

そこで子ども時代の食生活をよーく思い出してみると……母は家族の健康を考えて食事を作ってくれる人でしたが、朝食は各自で食べるパンとコーヒー。パンにはマーガリンをたっぷり付けておりました(時代ですね~笑)。おやつはもっぱら、添加物がたくさん入ったジャンクなお菓子。お腹が弱いのに、口呼吸が習慣になっていたせいで喉が渇きやすく、飲み物をがぶがぶ飲む子だったように思います。

そして大人になってから。朝ごはんは相変わらずパンにコーヒー。仕事が長く不規則だったことから、ほぼウィークデーは外食。お酒が大好きだったことから、食事の内容もお酒に合う脂っこいもの、味が濃いものばかり。これまた「痰湿」を溜めまくる食生活だったのです。

 

同じ食生活をしていても、兄は私ほど鼻水や痰は出ていなかったので、もちろん体質的な要因は大きいのでしょう。しかしながら、「あー、あれは痰湿溜まるよな」という生活でした。その後私は年を重ねるうちに、体調不良の日々から健康オタクとして目覚め、食生活もいろいろと改めていきました。

食事は和食を中心に、消化のいい発酵食品をふんだんに取り入れ、極力お腹にやさしいものを。お菓子を食べるときは、食後に質のいいものを少しだけ。水分はがぶがぶ飲まず、ちびりびりと少しずつ。「体がむくむな」と思ったら、利尿作用のある薬草茶(スギナ茶や柿の葉茶)を温かくして飲むように。もちろん今でもお酒は飲みますし、お菓子の撮影などがあったりしたら、甘いものをどっさり食べる日もあります。けれども「これは痰湿を溜める食だな」という意識が頭に入ってから、2年ほど経ったでしょうか。冒頭のように、ふと気づいたら、「体質が変わった」と言えそうなほどの変化が起こっていたのです。

今回は「鼻水や痰」に焦点を当てた文章を書いておりますが、「貧血」に関しても、ぐんと改善されました。「ぜんそく」も30代の終わりでほとんど治ってしまったのですが、それもほぼ食生活(&冷え取り)で改善されたと思います。病院や薬局で出される薬と比べて、「食べ物」の効果はゆる~く、じっくり長く時間がかかるものですが、「これって私の体質だからな」とあきらめていたことが続々と上書きされていき、なかなかあなどれないものだと思うのです。

この間、30代の女性と食事について話しているときに気づいたことがありました。彼女は自分の体を自動車のような機械に例えていて、日々の食べ物はガソリン、燃料のようにとらえていたのです。自分の体の性能は持って生まれたものだから変わらないし、食べ物は体を動かすために「カロリー」を摂取するもの。そういう考えだと、朝食に菓子パン、昼食にバスタ、夕食にワインとおつまみといった食生活でも、数字的に帳尻が合っていればOKなのです。

けれどもその考えの大きな勘違いは、日々の食べ物はガソリンであると同時に、自動車本体そのものを日々作り変えていく材料でもあるということ。食べ物を単なる燃料とあなどっていると、ある日体は、プスンとエンストを起こして当然なのですよね。

とにかく毎日忙しいのだから、ごはんはとりあえずお腹が一杯になればいい……私もそんな気分になることがあるので、よく分かります。けれども食事によって、実は車体(体)のポテンシャルが上がる可能性がある……と考えたら、何だか希望が持てませんか? 結構軟弱な体質だった私にとっては、「体質すら変わる」という成功体験(!)は、本当に本当にうれしいものだったのです。まずは「体質は変わらない」という思い込み、それを取り外してみることから始めてみませんか。



(プロフィール)

衣食住、暮らしまわりの書籍の編集、雑誌のライターとして活動する。からだとこころに関する取材も多く、フラワーエッセンスや漢方について勉強中。『からだとこころを整える』(エクスナレッジ)がある。編集を担当した『1週間で必ず体がラクになる お手軽気血ごはん』(文化出版局)が好評発売中。


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