Vol.13「『赤いもの』を食べましょう」

Text : 田中のり子

梅雨明けと同時に、真夏日がやってきましたね。ここ数年「猛暑」「酷暑」という言葉が当たり前になって、夏は以前以上に「暑さとの戦い」の季節となりました。かくいう私も、夏の暑さは大の苦手。暑い!→水分をとる&冷房にあたる→体が冷えて汗が出ない→さらに熱が内側にこもる→暑い!→水分をとる……のループで胃腸がやられ、夏バテに……をくり返している人間でした。

しかし漢方や薬膳を勉強するようになり、食材の選び方や食べ方によって、夏バテのような季節の不調は、かな~りの確率で防げることが分かってきました。2年ほど前から結構真面目に実行するようにしたら、子どものとき以来ウン十年ぶりに「夏バテしない夏」を過ごすことができたのです。食べ物って、化学合成された薬などと比べてゆるやかですが、それでも確実に効果はでるのですね。

漢方や薬膳を勉強すると、最初のほうに出てくるのが「五行論」。自然界のあらゆる法則を、「木火土金水」の5つの要素で説明するというもので、春夏秋冬に「長雨」という日本における「梅雨」のような時期を加えた5つの季節(五季)、肝・心・脾・肺・腎と呼ばれる5つの生理機能(五臓)、怒・喜・思・悲・恐という5つの感情(五志)……といった具合に、何でもかんでも(と言ったら失礼ですが)5つに分類して、その関連性を紐解く姿勢に、最初はカルチャーショックを受けました(笑)。

正直勉強しているうちに「これって若干こじつけ?」みたいな部分もありましたし、教えてくださった先生も「あくまで大まかな原則で、例外も多々ある」とおっしゃっていたのですが、でも「あなどれないな」「理にかなっているな」と感動する部分も多く、意識して沿う食生活をしていると、さすが数千年に渡って蓄積されてきた英知、確かに確実に体調がいいのです。

そんなわけで「夏」は、五臓でいうと「心」の季節。「心」とは、五臓六腑を統括するリーダーのような存在で、それぞれの臓器が果たす役割を調和させるだけでなく、感情や思考、判断力や記憶力といった精神活動も取りまとめてくれているのです。そして全身の血流をつかさどり、からだ各所にくまなく血を流してくれる役割も果たしています。

 


そして夏の色は「赤」で、味は「苦」。つまり、夏は色でいうと「赤いもの」、味でいうと「苦いもの」を食べるといいらしいのです。赤いものは、トマト、さくらんぼ、パプリカ、スイカ、小豆、梅干しなど。苦いものはゴーヤ、菊花、緑茶など。

『気血ごはん』でおなじみの瀬戸佳子先生も、「トマトと梅干しは、夏の間は毎日食べてもいい」と本の中で太鼓判を押されていました。それに今年の私はスイカを加え、「赤いものトリオ」として、毎日2つもしくは3つを食べるようにして、過ごしております。

トマトには体の内側にたまった熱気を冷ましてくれる作用があり、同時に口の渇きを止めつつ、胃腸の働きを高め、消化を促してくれるのだとか。私のような胃腸が弱い人は、飲み物をガブガブ飲んで熱を冷まそうとするよりも、食べ物によって水分補給しながら冷ましたほうが、お腹にはやさしいのです。そんなわけで手頃な大きさのミディトマトを常温に置いておき、「ちょっと喉が渇いたな」と思ったときなどに12個食べたりしています。不思議なのですが、冷たいドリングをゴクゴク飲んでも収まらない喉の渇きが、ピタリと止まったりします。


 

梅干しは、土用干しを終えた頃に夏本番がやってくるのがすごいですね。私は赤紫蘇を入れていない「白梅」にしているのですが、取り寄せた紫蘇入りの梅干しをメインに、自作の梅干しを挟み込むようなペースで食べています。そのまま食べるだけでなく、ひじきと一緒に炊き込みごはんにしたり、かたまり肉を煮るときの調味料として入れたり。

梅干しに含まれているクエン酸は疲労回復物質としても有名ですし、食欲増進や殺菌効果も。「ごはんに梅干しを入れて炊くと、お弁当の傷みも遅くなる」と料理家の先生にも聞いたことがあります。

 

 

そしてスイカ。実は数年前まで、スイカって食べたあとお腹が下る感じがして、実は少し苦手だったのです。けれどもそれは、冷房や食べ物で冷えている状態で、追い打ちをかけるようにして食べていたからで、トマトのように喉が渇いたときの水分補給のように食べると、本当に美味しい。ほてった体がスー―ッとラクになるのを実感し、もうすでに5回ほどリピ買いをしております。3㎝角ほどの食べやすいサイズにカットしておくと、冷蔵庫にも入れやすいし、気軽に食べやすいのです。ポイントは、冷蔵庫から取り出してしばらく置き、常温に近い状態で食べること。

栄養学的に言うと、スイカには抗酸化力の強いβカロテンとリコピンが豊富。暑気あたりや夏風邪の水分補給にも、驚くほど効果を発揮するそうです。「冷房で/外側から」ではなく、「食べ物で/内側から」熱を冷ます。その発想を頭に入れておくと、夏の過ごし方もガラリと変わり、夏バテにも大きな効果があると思います。

ちなみになすやきゅうりといった夏野菜にも、体の熱を冷ましつつ、余分な水分を排出する働きがあるそうです。やはり季節の素材は、その季節に必要な役割を果たしてくれるのですね。自然は偉大、自然に従っておけば間違いない。年々その思いを強くしております。

今年もまだまだ、この暑さが続きます。みなさんも「赤い素材」それから「苦い素材」や夏野菜をしっかり食べて、夏の日々を元気よくお過ごしくださいね

 

(プロフィール)

衣食住、暮らしまわりの書籍の編集、雑誌のライターとして活動する。からだとこころに関する取材も多く、フラワーエッセンスや漢方について勉強中。『からだとこころを整える』(エクスナレッジ)がある。編集を担当した『1週間で必ず体がラクになる お手軽気血ごはん』(文化出版局)が好評発売中。


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