Vol.5 「鉄分は大事です」
Text : 田中のり子
「鉄分不足」というと、みなさんどんなイメージを持っていらっしゃるでしょうか。「ふらふらと立ち眩みがする感じ?」「顔が青白くなったりするかなあ」という程度かもしれません。けれど例えば、以下の症状についてはいかがでしょう。
・目覚めが悪い
・何となく食欲がない
・冷え性
・疲れやすい
・肩こりがある
・目がかすむ
などなど。こういった不定愁訴に心当たりがある方、とても多いのではないでしょうか。鉄分不足による貧血になると、こんな症状も出てくるのです。それ以外に例えば美容面でも、こんな不調が数えられます。
・抜け毛、切れ毛
・爪が割れやすくなる
・肌荒れする
・血色が悪くなる
まさに鉄分不足は、女性の大敵ですね……! それなのに女性は月経があることで、男性よりも鉄分不足になりやすい傾向があるのです。かくいう私も過去に健康診断をすると、「正常範囲内の最下位」と診断されることがしばしば。つまり、あとほんのちょっと鉄が不足すると、「貧血」と認定される状態だったのです。でもそんな診断をされていても、「月経のあととかに、レバーを食べればいいのかな…?」程度の認識でした。
しかし本格的に意識が変わったのは、料理家のワタナベマキさんと『鉄分ごはん』(家の光協会)という本を制作したときのこと。そこで栄養監修をしていただいた先生にいろいろとお話を伺って以来、認識を大いに改めたのです。
理科の授業のおさらいですが、私たちの血液の中にある赤血球は「ヘモグロビン」という色素で構成されていて、この赤血球が全身の細胞に酸素を届けてくれています。このヘモグロビンを作るのに大切な要素が「鉄」。つまり鉄が不足すると、体中の細胞が酸素不足になってしまうのです! 「全身が酸素不足」というフレーズで、鉄分不足の怖さが急にリアルに、のしかかってきました。
また先生は、「寝不足や過度なストレス、不規則な生活なども、鉄分を消耗する」と教えてくれました。夜遅くまでテレビやパソコン、携帯電話などを見ること、残業続きや気が重くなる人間関係、徹夜や朝寝坊、一定しない食事時間……現代の暮らしの中でありがちな、こういった要素もすべて、鉄分不足を引き起こす原因になっているです。
そしてさらに「鉄分大事!」と認識したのは、漢方の勉強をしていたときのこと。漢方は「人間の体を構成する要素」を「気」「血」「水」に分けて考えますが、「血」は西洋医学の血液とほぼ同じととらえます。その役割は「全身に栄養を供給し、潤す」ことのほか、「精神活動の基礎物質になる」と考えられている部分が、東洋医学の大きなポイントとなっています。どういうことかというと、血が足りていないと
・頭がぼーっとして、思考力、判断力がにぶる
・不安にとりつかれて、悲観的になりやすい
・ささいなことが気になって、眠れなくなったり、眠りの質が悪くなったりする
・もの忘れが多くなる
・イライラする、落ち込みやすくなることが多い
などなど、精神面に多大なる影響が出るというのです。こういうのって性格的なものかと思いきや、「実は鉄分が不足していたから」という可能性も大アリなのです。頭を使いすぎると血を消耗しやすくなり、逆に血が不足すると頭が働かなくなる。編集やライターという職業は、それなりに頭を使う仕事ですから、これはもう致命的! 何はともあれ、よりいっそう、日々の食事で鉄分補給を意識するようになっていきました。
おすすめの具体的な鉄分メニューは、上記の『鉄分ごはん』をぜひお読みいただければと思うのですが、毎日の食事で鉄分を上手に取り入れるコツは、以下のふたつだと思います。
1動物性のヘム鉄素材と植物性の非ヘム鉄素材を、バランスよくとる
2コンスタントに鉄分を取れる食生活の習慣を取り入れる
鉄分は動物性のヘム鉄(肉や魚の赤身、貝などに含まれる)と、植物性の非ヘム鉄(野菜や穀類、海藻などに含まれる)があり、どちらか片方ではなく、両方を取るのが大事。たとえば主菜でお肉の炒め物を食べたら、副菜で青菜のおひたしを食べる、朝ごはんに緑黄色野菜のサラダをたくさん食べたら、夜か昼に魚を食べる……という風に、一食や一日三食の中で、両方の鉄分素材を食べることを意識するとよいのです。
また食生活の習慣ですが、私は毎日のごはんは「雑穀ごはん」にしたり、お味噌汁の出汁を「いりこだし」にしたり、鉄のフライパンをよく使うようにしています。そういう「特に意識しなくても、自然と鉄分が補給できる食事の習慣」を、無理なく組み込んでいくことが、続けられる秘訣だと思います。
体が食べるものでできているということはイメージしやすいですが、実は精神も大いに関係しているのです。体だけでなく心のためにも、しっかり鉄分をとっていきたいものですね。
(プロフィール)
衣食住、暮らしまわりの書籍の編集、雑誌のライターとして活動する。からだとこころに関する取材も多く、フラワーエッセンスや漢方について勉強中。著書に『暮らしが変わる仕事』(誠文堂新光社)、『からだとこころを整える』(エクスナレッジ)がある。