Vol.6 「口呼吸・鼻呼吸・深呼吸」

Text : 田中のり子

マスク生活も長くなり、当たり前の日常になってきましたね。秋も深まり、空気が乾燥してきたので、夏ほどマスクが苦痛でなくなってきたかもしれません。マスクは飛沫感染のリスクを減らすだけでなく、口まわりの湿度が保たれ、のどの粘膜を保護する作用も期待できるそうですから、一般的な風邪やインフルエンザ予防にもいいようです。

しかし私は、ハッと気づくと、「今、口呼吸しちゃっていたかも」と思うことが、何度かありました。どうも鼻まわりが圧迫され、スムーズに息を吸うことができず、つい口をパカッと開けて、そちらから息を吸ってしまっていたようなのです。

「口呼吸」と言えば、忘れられないエピソードがあります。確か30代に入ってしばらくした頃ですが、コンビニで雑誌を立ち読みしていたところ、美輪明宏さんのインタビュー記事が目に入りました。内容に関してはうろ覚えなのですが、こんな内容が書かれていました。

「現代人は口をパカーンと開けて、口呼吸をしている人が多すぎる。その結果、口から『悪い気』がどんどん入ってきている。本来『吸う息』は、すべて鼻から入れるものである」

当時の私は、大学に入学してから喘息を発症して、20代の間じゅう、経口薬とステロイドの吸入薬が手放せないような状態でした。発作が悪化すると薬も効かず、年に一度は夜間病院のお世話になり、点滴を打ってもらうようなことも。子どもの頃から鼻が詰まりやすく、口呼吸が当たり前の生活をしていたので、この記事はかなりの衝撃だったのです。「何とかしなくちゃ」と急激にふるい立たされ、以来家にいるときは、医療用のホワイトテープで口を閉じ、鼻孔拡張テープを貼るなどして、何とか「鼻呼吸」を習慣化させようと奮闘しました。ビジュアルはかなり間抜けでしたが(笑)、しばらく生活していると何と、喘息の症状が格段によくなったのです。

これは私が健康オタクになるきっかけの事件だったのですが、それまでは、からだというものは「変えられない設定」という意識が強かったように思います。冷え性やお腹が壊しやすいのも、「体質だから仕方がない」。薬を飲んだり、病院に行ったり、マッサージを受けたり。耐えられない苦痛が現れたら対処をするだけだった人間が、「働きかければ、からだが変わる」と気づけたのは、自分の中では革命的な事件だったのです。

そんな風に、人間のからだには「ちょっと使い方を工夫すると、各段に体調がよくなる」というポイントがいくつかあります。姿勢だったり、意識の使い方だったり、筋肉の使い方だったり。いろんな方に取材を続けるうちに、もっとも効果的、かつ「お金もかからず誰にもできる!」のは、やっぱり「呼吸」であることが分かってきたのです。

自然派医師の本間真二郎先生も、『感染を恐れない暮らし方』(講談社)いう著書の中で、口呼吸についても言及されています。口は本来、食べ物の通り道であって、呼吸器ではない。そして鼻は「天然の浄化・加温・加湿装置」の役割を果たしていて、空気中にある有害物質を遮断してくれる役割があるそうです。

また、口腔内の常在菌は、以前この連載でも書いた腸内細菌と同じように、離れた臓器や全身の病気に関係していることが、最近の研究で分かってきているそうです。かつての私のアレルギー性疾患(アトピー性皮膚炎、喘息、花粉症)だけでなく、動脈硬化や糖尿病、自己免疫疾患や認知症、うつ病などにも関連している(!)というから驚きです。口呼吸を続けていると、口の中が乾燥して、口腔内の常在菌がどんどん減ってしまうのだとか。

そこで先生は「今すぐ家庭でできる対策のひとつは、起きている間は口呼吸をやめることに尽きます」と書かれています。口呼吸をしがちな人はなかなか難しいと思いますが、美輪さま理論で「口で吸うと悪い気が入る!」と意識するだけで、ぐーんと変わるのではないでしょうか。

また、鼻呼吸と同じように大切なのが「深呼吸」。マスクをずっとしていると、どうも息が浅くなりがちです。それでなくても現代人は、慢性的なストレスで浅く短い呼吸になりがちだそうで、呼吸法の先生に取材したりすると、「ゆっくり、深く、長く」と諭されます。息を吐くことは副交感神経を、吸うことは交感神経を刺激しますが、特に副交感神経が優位になると、リラックスして、免疫系やホルモン系も調整されるそう。

のどミスト


イムネオール100

免疫力アップは、この冬の何よりの課題のひとつ。私も、写真に写っているような「通販生活」の「のどミスト」(のど粘膜の環境を整える、携帯用の吸入器)や、「イムネオール100」(9種類のアロマオイルからできた、リフレッシュローション。胸元にぬって呼吸すると、すっとします)、ゆずはちみつなどでのどケアをしつつ、鼻呼吸・深呼吸で乗り切りたいと考えています。

(プロフィール)
衣食住、暮らしまわりの書籍の編集、雑誌のライターとして活動する。からだとこころに関する取材も多く、フラワーエッセンスや漢方について勉強中。著書に『暮らしが変わる仕事』(誠文堂新光社)、『からだとこころを整える』(エクスナレッジ)がある。


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