Vol.8「気と血を補うごはん」

Text : 田中のり子

私が編集した本、瀬戸佳子先生著『気血ごはん』(文化出版局)が発売されました。佳子先生は東京・青山の「源保堂鍼灸院」で、東洋医学に基づいた食養生のアドバイス、レシピ提案を行っていらっしゃいます。この本は、「病名がつくような不調はないけれど、何だかいつも疲れていて、やる気も起らないような人」に向けて、書かれた本です。具体的に書いてみると、


・午前中はいつもだるく、夕方になってきてようやくエンジンがかかる
・冷え性なので冬が辛いけど、夏の暑さにも弱い
・常に不安や心配が頭から離れず、落ち込みやすく、夜眠れなかったりする
・昼ごはんを食べたあと必ず眠くなり、食欲がなくても甘いものだけは欲しくなる
・肌や髪に潤いがなく、顔のシミやクマが気になる


などなど。インスタグラムなどで、内容を紹介したら、「まさにこれ、私!」「思い当たるなあ」と、本当にたくさんの方から反響をいただきました。こういう「あるある」症状、東洋医学で言うところの「気(き)」と「血(けつ)」が不足している、「気血両虚(きけつりょうきょ)」という状態なのです。

「血」というのは西洋医学でいうところの血液とほぼイコールなので、イメージしやすいと思います。過去に『鉄分ごはん』を紹介したりして、いかに貧血対策が大切か、お伝えしてきました。もうひとつの「気」というのは……「元気」「雰囲気」「気になる」「気合い」などなど、あまりにも「気」という言葉が日本語に入りすぎていて、逆にちょっと分かりにくいかもしれません。


「気」というのは、ざっくり定義すると「体を動かすエネルギーや動力源」のこと。佳子先生曰く、「私たちの体と心が絶え間なく活動していけるのは、すべてそれらを動かす『気』があるおかげ」とのこと。血液が体の中を巡ったり、体温をしっかり保ったり、ウィルスや外気温から体を守ったり。食べ物を消化して栄養として吸収したり、体液や血液、尿や便が体からもれ出ないようにしたり……そういったこともすべて、「気」があるからこそ、スムーズに行われているわけです。逆に言うと、気が不足すれば、これらの働きはにぶくなるわけです。

この「血」と「気」が足りないのは、「栄養が足りていない」というのともうひとつ、「気」と「血」を消耗する生活をしていることが理由になります。

たとえば単純に、働いている時間が長く、睡眠時間が短いと、「気血」はどーんと消耗します。「気を使う」という言葉がある通り、緊張したり、ストレスのある状況にいたりすれば、これまた「気」はどんどん減っていきます。そしてぜひ頭に入れておいてほしいのが、目の酷使。パソコンやスマホの見過ぎは、確実に「気血」を消耗します。クセのようにスマホを見てしまう人、たくさんいますよね。あれは知らず知らずのうちに、自分の大切な気血を失ってしまう行為でもあるのです。また、Vol.5の「鉄分は大事です」にも書かせていただきましたが、頭の使いすぎは「血」を消耗し、逆に「血」が足りなくなると、頭が働かなくなり、思考力や判断力がにぶり、不安にとりつかれて悲観的になりやすくなったりするのです。

こうして書いてみると、ストレスの多い現代社会で、「気血」を消耗しないで生きていくのが、いかに難しいかがイメージできたのではないかと思います。だったら少しでも「消耗する行為」を自覚しつつ、「気血」を補う食事をとっていかねばいけません。



さてそんな症状に対し、佳子先生が本の中でおすすめしているのは、本のカバーにも登場している「ツナ缶」。「え?ツナ缶て、あのツナ缶?」と、真面目な方は思っちゃうかもしれませんが(気血両虚の人は真面目な人がとても多く、それゆえ気血を消耗してしまうのです)、缶詰のツナ缶です。実はツナ缶って最強なのです。

「気血」の材料がたっぷり含まれているのはもちろんのこと、保存が効くので買いだめできて、価格もお手頃。味も比較的ニュートラルなので、和洋中どんな味付けにも対応できて、ごはんや麺にのっけてよし、サラダにしてよし。火を入れる必要もないので、そのまんま食べてOK。こんなにありがたい食材はありません。私も夜ごはんは麺で済ますことが多いのですが、ツナ缶やカツオ缶など、魚介の缶詰をよく利用しています。「料理は思っている以上に、気力と体力を消耗するもの。どん底でも食べられる料理を考えましょう」という佳子先生のお言葉から、積極的に缶詰を活用するようになりました。

先日佳子先生の患者さんが、毎日ツナ缶とお味噌汁を始めてみたところ、「ピントが合わない、目がかすむといった老眼の症状が一気にラクになった」という驚きのご報告があったとか。恐るべしツナ缶です。「自分も気血両虚かも」と思い当たる人は、まずはツナ缶生活1週間、試してみてはいかがでしょうか。

(プロフィール)
衣食住、暮らしまわりの書籍の編集、雑誌のライターとして活動する。からだとこころに関する取材も多く、フラワーエッセンスや漢方について勉強中。著書に『暮らしが変わる仕事』(誠文堂新光社)、『からだとこころを整える』(エクスナレッジ)がある。


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