Vol.9「春先の不調」

Text : 田中のり子

東京では桜が満開を迎え、春がやってきました。冬が終わりを告げ、やわらかな新芽が吹き出す3月から4月にかけて、「理由は分からないけど、調子が悪い」という方も多いのではないでしょうか。かく言う私も、この原稿を書いている本日、絶不調。何だか胃腸の調子が悪いし、体の背面がだるくて仕方ない。こんな日は無理をしないと、ほぼ1日絶食し、可能な限り横になっておりましたら、少しずつ調子が戻ってきました。

ご存知の通り、春は最大のデトックスシーズン。季節の養生の本を読んでおりますと、どんな本でも「春先の過ごし方は要注意」とあります。片山洋次郎先生著『整体カレンダー』によりますと、「女性の1か月のサイクルでいえば、2月は生理前の準備期であれば、3月は生理中と同じ」とありました。この春のしんどさを、生理と重ねてみれば、女性なら「なるほど~」と思うことも多いですよね。

 



また、以前整体の先生に取材をしたところ、「冬は皮下脂肪をため込んで、冬眠に備える時季ですが、春はそれをどんどん脱ぎ捨てていくイメージ」「なので春先は下痢をしやすくなりますが、出すごとに体が軽くなり、季節に対応していきますので、どんどん出していきましょう」と言われました。私は暗示にかかりやすいタイプなので、言われた翌日から効果てきめん、「これがデトックスシーズンか~」としみじみ実感しました。

漢方で春の養生の基本は「発陳(はっちん)」という言葉で表されるそうです。「発陳」とは「陳(ふる)きを押し出し、新しいものを発生させる」という意味。植物たちが芽吹くように、枝が上へ上へと延びるように、冬の間眠っていたものが発散され、外にのびやかに現れてくるので、それを押さえつけず、のびのびと過ごすのがいいのだそうです。

具体的に言うと、髪の毛をぎゅーっと縛る、締め付けるような服を着るのもよくないのだそう。またガミガミ怒ったり、罰を与えてやる気を損なうようなことをするのも、NG。「いいね!」「やってみれば?」と、ほめてやる気を伸ばさせる方法が正解なのだそうです。ちなみに私は春先になると靴下を新調する習慣があるのですが、そんな話を勉強したこともあり、「足首を締めつけない靴下」をまとめ買いしました。

 



春の上へ上へと発散するエネルギーに上手く乗れるといいのでしょうが、冬の間に縮こまっていた体が上手く緩まなかったりして内側にこもってしまうと、不調が現れます。のぼせやすくなったり、のぼせを解消しようとしてむやみに食欲が出てしまったり。けれどここでたくさん食べてしまうと、のぼせがさらにエスカレートしてしまうので、春はできるだけ小食にしたほうがよいのだそうです。食いしん坊にはなかなか辛いですが、「春は小食にしたほうが体はラク」と覚えておくだけでも、体調管理には役立ちますよね。

また春は五臓のうち「肝」の季節と言われています。つまり血をしっかり補うことが、最重要課題なのです。肝は、血を貯蔵し、解毒やストレスの解消を担当する臓器。また気や血の流れを円滑にして全身に行き渡らせる働きがあります。

前回の「月の時間の過ごし方」でも「血」の大切さをいろいろと書きましたが、中でも春は特に、鉄分素材をたくさん食べることを意識したほうがよい季節なのです。あさりやしじみ、はまぐりなどの貝類のほか、菜花やほうれん草、アスパラガス、にらなど緑色の野菜をたっぷり食べるのがよいのだそうです。書いてみて分かりますが、どれも春に旬を迎える食材たち。季節の食を食べることが養生につながっているなんて、本当に自然はよくできているな~と、実感します。

4月からは新生活が始まり、ストレスをかかえることも多いかと思いますが、今は体の大変化期。「こうしなきゃ」「ああしなきゃ」と自分を縛るのではなく、なるべくゆる~く、のびのび過ごすようにしましょうね。


(プロフィール)

衣食住、暮らしまわりの書籍の編集、雑誌のライターとして活動する。からだとこころに関する取材も多く、フラワーエッセンスや漢方について勉強中。著書に『暮らしが変わる仕事』(誠文堂新光社)、『からだとこころを整える』(エクスナレッジ)がある。


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