第12回 スタイリスト
洲脇佑美さん



仕事でも、自宅のインテリアでも、その物が置かれた風景が、写真のようにパッと頭に思い浮かべば「上手くいく」。そう語る洲脇さんのオーバルボックスは、どれも黒ばかり。リビングの壁を彩るオーブン棚には、知人のフォトグラファーの作品を額装したもの、スウェーデンの陶芸家でガラス作家のインゲヤード・ローマンのガラス器や陶器、成井恒雄さんやカイ・フランクのジャグなどとともに、黒のオーバルボックスたちが飾られていました。


「今から5~6年前に購入した大小のオーバルボックスも、二段重なって置かれている様子をパッと思い浮かびました。もともと黒が好きで、黒はインテリアの『締め』ポイント。使う分量はそれほど多くなくても、ピリリと格好よく引き締めてくれる。それでいて、井藤さんのボックスはベースが木なので重くなりすぎず、どこか優美で、その匙加減が絶妙なのです」



洲脇さん宅にある「もの」たちは、ひとつひとつは、シンプルなデザインばかり。それでいてどれも、しっかりとした「存在感」があって、流行に左右されない造形そのものの美しさが際立ちます。黒いスチールの脚が印象的なイルマリ・タピオヴァーラの「ナナチェア」やビンテージのガラスベース、ピーター・マッキアリーニのリトグラフ……。どの場所から眺めても、美しい風景が立ち上がります。たとえテレビのような家電でも、それがそこにあることがふさわしい場所が与えられています。オーバルボックスたちも、それぞれが居心地よさげに、空間に溶け込んでいました。

「若いころはそれでも、いろんな買い物の失敗もしましたよ(笑)。でもこの年になると、『本当にいいものは、飽きない』としみじみ実感するようになりました。ちょっと価格高く感じるようなものにも、きちんと理由があります。人生に寄り添ってくれるものは、やっぱり『いいもの』と。そんな心境にたどり着きました」



OVAL BOX #6 ミルクペイント 黒金

こちらは洲脇さんの「請求書セット」。つい面倒に思いがちな請求書作業も、テンションが上がるように、「いいもの」を取り揃えています。領収書類もたっぷり入りそうな青い封筒は、「伊東屋」のオリジナル。「WECK」の小瓶には、デザインが可愛い切手を。イタリア製のスティックのりと、青い蓋は朱肉。電卓は「プラスマイナスゼロ」、右下の「ドワネル」オリジナルのミニポーチには、ハンコが入っています。



OVAL CARRIER #6  三度黒

ときどき取り出しては眺める「手紙入れ」。撮影時に、カメラマンに撮ってもらったポラロイド写真や、友人の子どもが描いてくれた絵、オランダ旅行で買い物した店からもらったしおりや航空会社のエチケットバッグ。右上の写真展のDMは、故・小泉佳春さんから送っていただいたもの。 




(プロフィール)
インテリアショップの店員、スタイリストのアシスタントを経て独立。雑誌や書籍、広告のインテリア・料理のスタイリングで幅広く活躍中。好きな言葉というか、人生で大事にしていることは「流れ」。「するする流れるときがタイミング」。「新しいことや何かを始めるとき、自分自身はバタバタしていないのに、環境や状況がするすると流れていき、私はただ波に乗っているようなときは『行く合図』だと信じています。逆に、やりたくてもなかなか進まないときは『今じゃないんだな』と思っています」。

BACK