第14回 カリグラファー
関 智子さん



 関さんのオーバルボックスの所有数は、もしかしたら今まで取材させていただいた方々の中で、ナンバーワンかもしれません。部屋の中を見渡してみると、あそこにも、ここにも。暮らしのあらゆる場面でさまざまなサイズのオーバルボックスが活用されていて、どれも確実にものが収められています。

「夫の仕事の都合で、転勤族であることが関係しているかもしれません。大きな家具は増やせないので、引き出しがわりにボックスを使っていた感じです。引っ越した先でもすぐに仕事道具を使えるように、ボックスの中身を入れたまま段ボールにひょいと入れて荷造りする……ということも(笑)」

「もの」が好きで、「前世はものだったのでは」と笑う関さん。確かに部屋にはたくさんのものが置かれていましたが、ひとつひとつに愛情を持って扱われている様子が、こちらにも伝わってきます。仕事部屋にお邪魔すると、インクやペン先、ペン軸、文鎮や定規など、細かな道具がずらり。それら仕事道具の収納にも、オーバルボックスは存分に活用されていました。

「カリグラフィーの歴史は紀元前から始まっていて、それが中世の聖書の写本によって大きく発展しました。美しい文字、美しい線を描くためには、心を落ち着けることも大切です。日本の書道と同じように、心のザワザワはペン先を伝って線に表れてしまうんです。ものを移動したり、収めたりするときに生じるカチャカチャした生活音って、意外と気になるものなんですよね。その点井藤さんのオーバルボックスは、木なので当たりがやわらかく、音を吸収してくれるので、すっと静かな気持ちになります」

インクを入れたピッチャーは、ミルクペイントの黒の0サイズに入れていました。箱は収納だけでなく、「区切り」や「結界」をつける役割も。そこに収めているだけで、中にあるものが「ちょっと特別」になる。そうした気配りの積み重ねが、美しい文字を生み出す原動力にもなっています。

「中にどんなに雑多なものを詰めたとしても、ふたをしたら静謐な空気が流れます。それでいて冷たい感じがしないし、ものとしての可愛らしさもある。包容力のあるすごい箱だなあ……と思って、つい『もうひとつ』と、欲しくなってしまうんです(笑)」



なお「IFUJI BOX MAKER」の深型ボックスの底には、サイズと共に「D」の刻印が押されていますが、これは関さんの書いた文字が使われています。

OVAL BOX #7)

 10年ほど前に、大阪府堺で開催されたクラフトフェア「灯しびとの集い」で購入したボックスには、カリグラフィーに使う細々とした道具が収められています。右上から反時計まわりに定規類、白い包みは1950年代の宮大工さんのための道具入れ。「ポスタルコ」の茶色いペンケースは、色鉛筆入れに。「BONOX」のビーカーやフラスコには、細々した筆記類を入れて。青の「ステッドラー」の鉛筆を入れているのは、「qansavi」の革のペンケース。その下の家のガラス製オブジェは、扇田克也さんの作品。電卓はレイアウトを決める際に活用。ガラスとステンレスのシャーレは、どちらもパレットとして。ハリネズミ型のブラシは「レデッカー」のもの。隣の革のペンケースは「土屋鞄製造所」のもの。



(OVAL BOX #2浅型三度黒)

右上は墨汁入れ。その下はラフ用の「イープラスエム」のクラッチペンシル、隣は「ブラウゼ」社のペン軸、「カランダッシュ」社のペン軸、熊野で作られた細密画用の絵筆。フラスコとビーカーは「BONOX」のもの。



(OVAL BOX #2、#1浅型 ミルクペイント白)

白いふたつのボックスはお香入れとして活用。大きい2サイズのボックスは、自分で白くペイントしたもの。真鍮製のお皿はお香立てとして活用。匂いを混ぜたくないものは1サイズのほうに、その他は2サイズにまとめて収納。お香はすべて京都「松栄堂」が手掛けるインセンスブランド「リスン」のもの。



(プロフィール)

1997年カリグラフィーに出会い、現在はフリーランスのカリグラファーとして活躍中。座右の銘はイギリスの経済学者、アルフレッド・マーシャルの言葉「Cool heads,but warm hearts.」。「いろんな大変なことがありますが、どんなときも頭は冷静に、心は温かくを心がけたいと思っています」

 

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