第15回 「薬研堀 八昌」女将
片山 裕子さん
「お好み焼き」と言えば、広島のソウルフード。常に行列が絶えない人気お好み焼き店「薬研堀 八昌」の女将として忙しい日々を送りつつ、日々の暮らしのディテールを楽しんでいる片山裕子さん。部屋の中には、長年かけて買い集めてきた作家ものの生活道具が並び、DIYで好みの色や質感にカスタマイズされた家具や家電などからも、その様子がうかがえます。
「長年木のアイテムがとにかく好きで、ここ何年かは深みのあるウォールナットのような木材や黒のレザーなど、シックで存在感がある質感が気になっています。経年変化で少しずつ味わいが増していく様子が楽しいし、そうやって一緒に年を重ねて暮らしている感じが嬉しいですよね」
そんな片山さんの暮らしには、いくつものオーバルボックスが使われていました。いちばん古いものは、10数年前に購入したもの。ベーシックなサクラ材に加え、落ち着いた部屋のトーンに合わせて、三度黒やグレイッシュな草木染めのボックスも。お香入れやアクセサリー入れ、コーヒー豆の収納、それからここ数年続けている「筆アート」の道具入れとしても活躍しています。
「実はこれよりもたくさん持っていたんですが、家に遊びに来た友人たちから『本当に素敵』『私も使ってみたい!』と言われることが多くて、『大切に使ってもらえるなら』と、いくつかはお譲りしたんです。井藤さんのオーバルボックスは、無駄のないシンプルな形をしているのにバランスが素晴らしく、いつ見ても『美しいな』と惚れ惚れします。私は色を塗ったり、パーツを取り付けたりと、家具や生活道具を自分好みにカスタムするのが趣味なのですが、このボックスの完成度の前では、とてもとても手を入れることなんてできませんね(笑)」
そんな片山さんがここ数年続けているのが、「筆アート」。筆ペンを使用し、オリジナルの文字を描くアートのことで、季節の挨拶やお祝いメッセージを描くほか、誕生したお子さんの命名書を描く仕事をしたりしています。もともと素養のあった書道の技術を生かしながら、カラーの筆ペンを活用したり、スタンプと組み合わせたり。のびのびと自由でありながら、すっと背筋が伸びるような折り目正しさもあって、まわりからも大好評。友人たちに請われて、自宅で教室を開催していた時期もありました。
「しあわせな場面を想像しながら描くので、やはり道具類は、『美しいもの』や『心が整うもの』に入れておくことが大事だと思っています。その点、このオーバルボックスたちは本当に頼もしい。そうそう、ちょっとマニアックかもしれませんが、蓋を開けたときにほんのり香る、木の匂いもお気に入りのポイントなんです(笑)」
いちばん大きな#6には筆と筆ペンを。筆は地元・広島の伝統工芸品でもある熊野筆。筆ペンは「ペンテル」のものを愛用。深さのある#4には作品類と朱肉、スタンプ台を。#1、#0には、落款印(らっかんいん。書や絵画などに押す印鑑のこと)を。
(OVAL CARRIER #6 三度黒)
右上のガラス瓶の中には、「ティートリコ」の紅茶。左上は10年以上前に雑貨店「CINQ」で購入した紅茶用のブリキ缶。コーヒーを飲む頻度があまりにも高いため、現在はコーヒー豆入れとして活用中。下のふたつは「グローカルスタンダードプロダクツ」のステンレス製キャニスター。蓋はチーク材で、中にはやはりコーヒー豆を入れています。
(プロフィール)
東京で会社員を経た夫の義邦さんと共に広島へ。修行を経て「薬研堀 八昌」の店主となった義邦さんと共に、店を切り盛りしている。こちらのお好み焼きは正円ではなく、やや楕円(オーバル)に焼き上げているそう。好きな言葉は「凛として」。「生きていると本当にいろんなことがありますが、いつでも自分らしさを大切に、凛とした姿でいたいと願っています」。