第17回 「古美術うまのほね」
鎌田 充浩さん



オーバルボックスの蓋を開くと小さな箱が3つ、布にくるまれて収まっていました。ひとつずつ開くと、唐草のような藍の文様が入った盃に、白磁の蓋物、こっくりとした肌理が美しい平盃。作られた国も時代もさまざまな器が3つ。それに徳利代わりだというアンティークのガラス瓶に漏斗、ここ最近「1日1本」と決めて飲んでいる、日本酒カップもセットされていました。どうやらこれは、鎌田さんお気に入りの「酒器セット」のよう。

「仕事から帰宅して、晩酌の時間が楽しみなんですが、子どもがまだ小さくて、あちこちに置いておくことができない。妻も『割るのが怖い』と言うので、こうやって箱にひとまとめにしているんです。実はこういうセット、地方に出張に行くときにも、よく持って行ったりするんですよ」

日本各地の業者さんやお客さんに会うと、お酒の席などで「骨董屋さんだから、何か持ってきているんでしょ」と尋ねられることもしばしば。そうするとマイ酒器をさっと取り出し、「おっ、それいい器だね」ということになれば、お譲りすることも。骨董の世界は、「この人が選んだもの、だから買う」と、目利きの選択眼を楽しむものでもあります。どうやら鎌田さんの人柄や選ぶ目に信頼をおく人たちが、そんな出会いを楽しみにしている様子です。

「オーバルボックスはいいんですよ。新幹線の席に座って、折り畳みテーブルを取り出して『さて一杯』というときに、蓋を返すと、小さなお盆にもなるでしょう」

職業柄、常にものを探して、買って売る、そのくり返しという鎌田さん。オーバルボックスのデザイン元となっているシェーカーボックスのオリジナルも、一度買って使ってみたいと、競り場や骨董市で探してまわったこともあったそう。

「ただやはり……値段は恐ろしく高いし、コンディションもよくない。なかなか『これ』という出会いがないときに、IFUJI BOX MAKERのオーバルボックスを手にしたんです。そしたら、『あ、これがいいじゃん』と、感動してしまって。僕の仕事は、メソポタミア文明の紀元前5000年以降のオリエント美術、19世紀くらいまでの西洋美術をテリトリーとしています。同じものが二つとしてない、まさに一期一会の品を扱っていますが、一方で『これだけの品質のものが、この価格で手に入れることができるって、何て素晴らしいことだろう』と、素直に思えたんです。大量生産品とは違う、質のいい素材を使って確かな技術で作られているものが、適切な価格で買うことができる。それは本当に、幸せなことですよね」

鎌田さんが買い付けの基準にしていることは、「手のひらに載る、小さなもの」そして「密度の高いもの」。「密度」は説明が難しいそうですが、繊細な質感や細工、もの自体が持つエネルギーが、ぎゅっと濃縮された様子。小さくても、そのまわりの空気を変えてくれるような、存在感を放つものたちです。

「オーバルボックスの素晴らしいところは、暮らしになじむ道具でありながら、どんなものを中に収めても負けない、風格があるんです。そしてオーバルは、有機的なかたちですよね。柔らかかったり、優しかったり、何かいろんなものを内包してくれるようなイメージがあるので、一緒に生活するのにも、とてもいい道具だと思います」



OVAL BOX #5 草木染)

右上のブリキの漏斗は、骨董市にて300円程度で見つけたもの。「ペラペラな薄さですが、サイズが小さくて持ち運びも便利で、気に入っています」。その下のガラス瓶は、フランス18世紀の薬品瓶。中央の白磁の蓋物は、中国五代定窯の「明器(めいき)」(死者とともに、墓に納められた副葬品。日常の道具を模している)。その下はオランダ18世紀のデルフト焼。手前は13世紀の李朝平盃。箱は、それぞれの器が納められたもの。左上は「真澄」のカップ酒。



(プロフィール)

グラフィックデザインの仕事を経て、古美術の世界へ。オリエントの骨董を扱う「古美術うまのほね」を営む。好きな言葉は「赤ちょうちん」。「その言葉から立ち上る香気というか、空気感が好きです」。2021年5月22、23日に「道具屋めいてい研究所こっとう市」(銀座ソニーパーク)、6月4、5、6日には「青花の会 骨董祭2021」(神楽坂)へ出店。

 

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