第19回 
IFUJI」スタッフ 飯島香織さん



今回のご登場いただくのは、オーバルボックスの作り手、「IFUJI」でスタッフとして働く飯島さん。工房に勤め始めて7年目、代表の井藤昌志さんが「本当に丁寧で、細やかな気配りができる人」と、絶大なる信頼を置く、スタッフです。

飯島さんがオーバルボックスの存在を知ったのは、雑誌『天然生活』20084月号を手に取ったのがきっかけでした。その号は井藤さんが、アメリカでシェーカーのオーバルボックスを復元している木工作家、ジョン・ウィルソンさんとシェーカー村を訪れる記事が掲載されていました。



「そのページを読んで、初めてオーバルボックスの存在を知りました。『何てきれいな箱だろう』と、何度も見返してしまって……そうしたら数年後、いちばん下の娘が幼稚園に入ったタイミングで、井藤さんの工房に求人募集が出たんです。『これはチャンスだ!』と後先考えず、思わず連絡してしまいました」

普段はどちらかというと「私なんて」と予防線を張りがちな慎重派で、このときの行動力は、今思い返しても不思議だったと話す飯島さん。運命の出会いだったのかもしれません。「私は不器用なんですが」と謙遜されますが(井藤さんも「そんなことないですよ!」と否定)、長く作り続けていても「作る」ということに一向に飽きる気配はなく、むしろひとつひとつの工程をより丁寧に、「もっと上手になりたい」という情熱が沸々と湧き上がっているそうです。

IFUJIの工房は、スタッフ全員、みんなオーバルボックスに対する思いが強くて(笑)、どうしたらよりよいものが作れるか、常に意見を出し合い、知恵をシェアしています。植物性オイルと蜜蝋ワックスを塗る作業のときは、、この先も長く使ってもらうことを思い、お嫁に出すような気分で仕上げています」 

そんな飯島さんのお住まいは、オーバルボックスのほかにも、雑貨屋で見つけたというインドの木製トレイやアフリカのかご、縄文土器にアボリジニが手掛けたブーメランなど、手工芸品がいくつも飾られていました。今は亡きお父さまは静岡で3代目の和菓子職人で、家には木製の道具や木箱がいくつも並び、今でも夢に出てくるのは、コツコツと和菓子を作り続けている姿だそう。「作ること」に対する憧憬の念は、そんな後ろ姿から、自然に育まれてきたものなのかもしれません。

「手仕事は、ものの裏に『人』を感じられるところが好きです。インドのトレイからは作りながら楽しんでいる様子が思い浮かんできますし、縄文土器の欠片からは当時の暮らしの様子を想像できます。ものは人間の一生よりずっと長生きするというのも、本当にすごいことだと思えます」

 一男二女の母でもある飯島さん。お子さんたちが結婚するときは、それぞれに自分も制作に携わったオーバルボックスを持たせたいと考えているそう。子どもが使っていたものが、またその子どもに引き継がれ、暮らしの道具となっていく。きっとそんな風に長く使ってもらえるだろうな……と想像できる「もの作り」。それが仕事にできているということが誇らしく、大きな喜びだと話してくれました。

OVAL BOX #5、#4、#3)

「生活していると、どうしても出てきてしまう雑多なものを目隠ししてくれるのに、オーバルボックスは本当に助かります」。5サイズにはマスク、4サイズは携帯ティッシュ、3サイズはイヤホンや充電器のコード類を。子どもたちも毎朝ここから取り出して、学校に出かけるのだそう。

OVAL BOX #1)

愛犬・りあんの抜けた歯とひげ毛を。短毛種のミニチュアピンシャーなので、長い毛を取っておくことがむずかしく、ひげが抜けたときに取っておいたもの。家族の思い出の品として、ボックスに大切に保管しているそう。

 



(プロフィール)

結婚を機に長野県松本市に移住。子育てを経て、2014年より「IFUJI」工房スタッフに。好きな言葉は「日々是好日」。「母方の祖父が書いた書を、仕事机の横に貼っています。心がざわざわするようなときも、それを見ると、スッと心が落ち着きます」。

 

文・田中のり子
写真・大森忠明

 

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