第20回
長野県松本市美ケ原温泉
「金宇館(かなうかん)」
今回の「箱の中の風景」は番外編。「IFUJI」のオーバルボックスが部屋の什器として使われている、松本市内の素敵な旅館を訪ねました。
松本の市街地から車でおよそ15分、美ケ原温泉に4代続く温泉宿「金宇館」。現代表を務める金宇正嗣さんのお曾祖父さまが昭和初期に建てられた木造3階建ての宿屋を、「次の100年に残せるように」と、2020年に本館と浴室棟をリノベーションしたばかりです。
「もとあった宿屋は、文化財になるような重厚な造りではなく、いい意味で『普通』だったんです。その建物のよさをシンプルに生かし、簡素でありながら良質な自然素材をふんだんに取り入れて、時間の流れをゆっくり楽しんでもらえるような空間にと、考えました。初代が掘り当てた肌当たり柔らかな『御母家の湯』と、建物を囲む庭園が、光によって刻々と変化していく様子を堪能していただければと思っています」と金宇さん。
リノベーションにあたって金宇さんは、「地元の作り手と仕事をすること」にこだわりました。設計を担当したのは、安曇野に事務所を構える「北村建築設計事務所」の北村浩康さん・佐絵子さん。客室のテーブルやベッドなど家具を手掛けたのは、松本で4代続く木工家・「アトリエm4」の前田大作さん。お食事も地元信州の素材にこだわり、玄関脇の土間スペースにあるショップギャラリーでは、地元作家の器や、松本の品々を紹介しています。
そんな「金宇館」で「IFUJI」のオーバルボックスは、9室ある客室それぞれに置かれていました。
(OVAL BOX #8 草木染め)
中に入っているのは、急須や湯飲み、茶托、茶缶、茶殻入れなどの茶器類とグラス。お客さまが部屋に入り、お茶でほっとひと息つくとき。あるいは湯上りに、一杯の水を飲むくつろぎ時間に。そんなシーンに役立つ道具一式が収められています。
「リノベーションにあたり、以前の古い柱に新しい柱を継ぐなど、あえて古いものと新しいものを混在させる形を取りました。古い部分と新しい部分を意識することで、お客さまにも建物の歴史や時の流れ、自然素材が変化することの美しさを感じてもらいたいと思ったんです。このオーバルボックスたちとも、この建物と一緒に、ゆっくりと時を重ねていければと思っています」。
(プロフィール)
「金宇館」
長野県松本市里山辺131‐2 ☏ 0263‐32‐1922 http://kanaukan.com/
※予約はホームページより
文・田中のり子
写真・大森忠明