第22回
主婦 小暮涼子さん
23歳で結婚し、二男一女の子育てに長年明け暮れていたという小暮涼子さん。家族のために食事を作り、掃除や洗濯をして、外に働きにも出て……そんな忙しい中でも、暮らしまわりのことを考えるのは好きで、ナチュラルなライフスタイルに憧れを持ち、家の中を心地よく整えてきました。現在はお子さんたちも独立され、旦那さまもリタイア。時間に余裕ができ、家のことをさらに楽しめるようになりました。
築26年になるという一軒家のご自宅は、お店の方に教わりながら、自力でウィリアム・モリスの壁紙をリビングの壁に貼ったり、息子さんが使っていたベッドのヘッドを縁台に取り付け、ガーデンベンチにしたり。部屋の随所にアンティークや古道具が活用され、オーバルボックスを置いた窓辺には、古いガラス瓶の中にお手製のドライフラワーが飾られています。
「右は10年前に誕生日にもらった花をドライにしたもの。左はたんぽぽの綿毛が開く前に摘んだものを束ねて、瓶の中に入れました。どちらもほぼ材料費ゼロですが(笑)、暮らしの中に『思い出』を工夫して飾るのが、楽しみのひとつなんです」
インテリアをつくる上で、大きな影響を受けたのは日本におけるテーブルコーディネーターの草分け、クニエダヤスエさんの本。当時の日本ではまだめずらしかった欧米の雑貨たちをふんだんに取り入れ、自然素材の生活道具を中心に、落ち着いたトーンでまとめたスタイルは、多くの女性たちに支持されました。1985年に発売された『ナチュラルな生活づくり』という本にはシェーカーボックスが紹介されていて、小暮さんの記憶にも、長く刻み込まれてきました。
「この『IFUJI』のオーバルボックスは、息子の結婚式で両親へのお礼としてプレゼントされたものなんです。包みを開いたときに『あ、あのボックスだ!』と、とてもうれしくなりました。もともと器も楕円形が好き。木のやさしい風合いですが、どこか凛としている佇まい。お気に入りのソファに座ったときに、ちょうど目線に入る位置に置いて、いつも目を楽しませてもらっています」
中に収めているものは、「実用」というよりは、「眺める楽しみ」を念頭に置いたもの。形がさまざまで、何か箱に収めておきたくなるもの。箱を開くたびに、やさしい気持ちがなつかしい思い出が、ふわりと立ち昇ってくるもの。持っているふたつのボックスはどちらも薄型なので、標本箱のように、中を見渡すのにぴったりな大きさです。
「ものは大好きですが、なるべくものを増やさないような生活を心掛けています。これからの地球環境を考えると、特にプラスチック製品はできるだけ避けるように。何か欲しいものがあっても、『買う』『買わない』は、ものすごくじっくり考え、判断するようにしています」
それでも新しく手元に置くものを選ぶ基準は、使い終わったあと、土に還るもの。そしてたとえ自分が亡くなってしまったあとも、捨てずに誰かに大切に使ってもらえそうなもの。
「このオーバルボックスはまさに、そういうアイテムですよね。きっと時代を超えて、誰かにビンテージやアンティークとして、ずっと大切にしてもらえる。そういうものと暮らしていけるのは、本当に幸せなことだと思います」
(OVAL BOX ENFIELD #3)
「ときどきふたを開けてニヤリとするような、眺めて楽しいものを取り留めもなく収めています」。新婚旅行で行ったオーストラリアで見つけた鳥形のフック、ドールハウスのミニチュアの椅子や食器、友人からもらったメダイ、アンティークのガラス瓶、枯れた紫陽花の花など。
(OVAL BOX ENFIELD #2)
息子さんが文化服装学園に通っているとき、使っていたレースや刺繍糸を譲り受けたもの。刺繍糸は庭で剪定した木の枝に、好きな色合わせでぐるぐる巻きつけています。
(プロフィール)
3人の子育てを終え、現在は埼玉の一軒家にて夫と暮らす。2人の孫と会うのが楽しみ。趣味は読書とガーデニング。好きな言葉は「感じのいい人になる」。「なかなか難しいことですが、自分もそうでありたいと日々願っています。
文・田中のり子
写真・大森忠明