第7回 フォトグラファー
大森忠明さん




大森さんが愛用するオーバルボックスは、愛車の助手席が定位置。帽子やドリンクのボトルなどと一緒にゴロンと置かれ、中には眼鏡とサングラス、愛娘・青(あおい)ちゃんの赤ちゃんの頃の写真が収められています。

「箱は妻(注:フォトグラファーの砂原文さん)からのプレゼントで、写真も彼女が撮ったもの。お互いに仕事柄、撮影場所などで『いいもの』を見る機会が多く、誕生日とかクリスマスじゃない、何でもない日にプレゼントを贈り合うことも多いんです。これは娘がまだ小さい時期に、僕が家事を頑張っていたことへの、ご褒美だったかな」

砂原さん出産時も、1か月の育児休暇を取った大森さん。忙しく過ごすフリーランスのフォトグラファー同士、当たり前のように家事分担を行っているそうですが、それでも日々、感謝の思いを伝え合うことを、忘れないようにしている様子です。

「自分の車の中って、カメラマンにとって特別な空間だと思うんです。生活の場から撮影現場へと向かう間に、一人っきりになり、心を整える場所。撮影の開始時間は、だいたい似通っているので、同じ時間帯のラジオ番組を聴いたり、コーヒーを飲んだりというルーティンがあって。そしてこのボックスを開け、『今日はどの眼鏡にしようかな』と選ぶのが、気持ちを切り替えるスイッチみたいになっています」

生活空間で使う眼鏡と、撮影用の眼鏡をきっぱり分けているという大森さん。仕事用の眼鏡のレンズは、カメラのレンズにも使われていることの多い、ドイツのメーカー「カールツァイス」のもの。フォトグラファーは、撮影現場を仕切る「マスター」のような存在。心がざわついていると、撮る「場」が、澄んだ状態になりません。眼鏡を取り換えるのは、いい写真を撮るための、小さな儀式のようなもののようです。

「そんなとき、眼鏡がやっぱり『いい箱』に収められていると、やっぱり気分が上がりますよね。使っている人には伝わると思うんですけど、蓋を開くときの、シュワッ、ポン、と空気抵抗のある音がいい(笑)。きれいに仕立てられたものをラフに使って、傷がついてもいい傷になる、そういう感じが好き。家に置いておくより、もしかしたら劣化は早いかもしれないけど、そうやってどんどん自分のものになっていく様子を楽しみたいと思っています」

(OVAL BOX ミルクペイント黒金 #5 )

中に入っているのは眼鏡が2つ、サングラスが2つ。右上から時計回りに、撮影用の眼鏡、サングラスふたつはデンマークのメーカー「リンドバーグ」のもの。右下の遠近両用眼鏡はイギリスの「オリバー・ゴールドスミス」。実は眼鏡とサングラスはこの3倍くらい持っていて、仕事用には「精鋭のお気に入り」を集結させているそう。写真はコンタックスのフィルムカメラT2で撮影したもの。今は小学2年生になった青ちゃんのために、青色のオーバルボックスをいつかプレゼントしたいと考えているそう。


(プロフィール)
大学4年生のときに就職活動に挫折し、「自然」に師事して、写真の道へ。雑誌、書籍、広告などで幅広く活躍。好きな言葉は「きれいなものが好き」。人も物も、世界も、見る角度、光の角度次第で美しく見えると考えている。

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