自然と人間の間にたたずむものでありたい
陶芸家 水谷 智美(みずたに ともみ)さん
「昔から『土を焼き締める』ということにすごく魅力を感じているんです。
やわらかい素材が窯の中の熱エネルギーで焼き締まり、石のようになって出てくることが、
自然の流れをタイムスリップするような不思議な感覚がして」
そう話してくれる水谷 智美さんの作品は、陶器と磁器の中間の性質を持つ土を使って作る炻器(せっき)というもの。
ヨーロッパではストーンウエアと呼ばれる、石のように硬い質感の焼きものです。
水谷さんは主に、炻器の表面に色彩を施して、薪窯の灰かぶりのように焼締める方法で作品を作られています。
そうすることで、表面が石や岩のようにざらざらとした質感となり、
まるで発掘された土器のような、風化した石のような、独特の風合いが生まれるのだとか。
作品は手捻りと型打ちで作られていて、土のありのままの素朴さと力強さをいかしたおおらかで表情豊かな形が特徴です。
同じマグカップをとっても大きさや形、色合いは均一ではありませんが、それぞれが放つ個性にあたたかみを感じられます。
「最近土が変わったので、ちょっと作品の雰囲気にも影響しているかもしれません」と水谷さん。
陶芸に使っている土は、夫で陶芸家の水谷渉さんが採ってきた唐津の土と、天草陶石などの磁器の土を混ぜ合わせているそうですが、
最近新しい場所の土に変えたところ、土の質がかなり変わってしまったそうで、
今までと同じように作ってもまったくちがった風合いの器が焼き上がってきたのだとか。
「素材である土の力が圧倒的だと常に思い知らされます。窯に入れた時点で作品は作り手の作為からは離れていくもの。
あとは自然にお任せして、できたものを受け入れるだけなんだと感じます」
成り行きを受け入れて、いい塩梅を探っていくのもまた楽しいとか。
2016年に佐賀県に移り住んだ時にも、そんな試行錯誤の日々があったそうです。
それまでは薪窯で作品を作ってきましたが、子育てなどのライフスタイルの変化のために、
大変な労力のかかる薪窯での焼成を続けることを断念。移住を機に、思い切って電気窯に切り替えたのでした。
薪より電気の方がコントロールもきくし、ロスも少ない。だけど薪で焼くことで生まれる風合いが好き。
この両方のいいとこを取り入れようと何度も試してはやり直し、納得できるものへと近づけていったといいます。
「土や薪などの原料を自分で準備して、文明の利器の恩恵を受けずに自然の力だけで焼きものを作ってみたいという憧れもあるけれど、
そうなると生活は制作中心にしなければむつかしい。
自分の暮らしも制作もどちらも大切にしたいから、その時その時でバランスをとりながら、絶妙な方法を探っていければと思っています」
水谷さんが作る器にも、実は“いいとこ取り”な魅力があります。
ざらついてマットな質感の器は、一見取り扱いがむつかしそうな印象を受けますが、
電子レンジや食洗機を利用しても大丈夫とか。使い手にとってはうれしい限りです。
使い続けるほどに器表面のざらつきが丸くなり、たとえ料理の油分が器に移ったとしても
それが馴染んで味わいにもなるそうなので「ぜひ器を育てる感覚で、経年変化を楽しんでいただけたら」と水谷さん。
圧倒的な存在感を放ちながらも、和の空間にも洋の空間にも不思議ととけ込む……。
LABORATORIOにて1月21日(金)からはじまった山口愛 水谷智美 二人展「風を待つ」では
そんな水谷さんの作品を幅広くご紹介しています。
今回の二人展では、いろいろな色を混ぜて深みのある色合いと風合いを表現してくださったそう。
食卓で活躍してくれる器のほかに、壺や花器、オブジェなどもたくさんならび、見応えがあります。
また、山口さんが絵付けし水谷さんが焼成した陶板などの共同作品では、
水谷さんの作品のまた違った魅力も感じていただけるかと思います。
※個展の模様はこちらをご覧ください。
1月28日(金)からは、オンライン個展でも一部の作品をご紹介しますのでぜひご覧ください。
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水谷智美(みずたに ともみ)
愛知県立芸術大学陶磁専攻卒業。
岐阜県飛騨市、島根県松江市での制作を経て、
現在は佐賀県多久市に工房を構える。
陶器と磁器の中間の性質を持つ土を焼きしめて作る炻器(せっき)を制作。
個性豊かな表情の質感と造形を持つ作品を数多く生み出している。