作家紹介 / 画家  山口愛さん

内側にある もうひとつの世界の景色を手繰るように

画家 山口 愛(やまぐち めぐみ)さん

イラスト、壁画、板絵、絵馬、陶板、漫画……、幅広い表現方法で活動する画家、山口 愛(やまぐち めぐみ)さんは、
小学生の頃から、いつでもずっと手を動かして何かを作っていたい性分だったそう。

「授業中に消しゴムやねりけしで何かを作っては、先生に『また手まぜして!』ってよく怒られました。
手まぜっていうのは、地元九州の方言で手で遊ぶことという意味で、落ち着きがないって怒られる時に使われる言葉なんですが、
ついついやっちゃうというニュアンスがいいなあ、って今でもお気に入りの言葉です」

小学生の頃にアンコールワットの写真集を初めて見て衝撃を受け、
それ以来、遺跡の魅力にとりつかれたという渋いセンスの子供時代だったそうで、
遺跡にありそうなものなどを“手まぜ”で作ったりしていたのだとか。


そんな「ものづくりが好き」という気持ちから進学した多摩美術大学では、油絵専攻していたものの
これはわたしには向いてない!と気づかされたといいます。

「油絵は絵の具を塗り重ねていく手法で、乾くのに時間もかかり、準備や片付けも大変……。
がんばって描いていた時期もありますが、描き出すまでのハードルが私には高くて性に合いませんでした。
紙にオイルパステルやペンで、それこそ子どもの頃の手まぜのように描いていくのが自分にとっては自然だと気づきました」



驚くことに下描きなしの一発描きで作品を仕上げていくという山口さん。
頭で描くものを考えてから描くのではなく、まず線を引いてみて、その時の感覚で描き進めていく。
そして違うと思ったらまた最初から、だけど消した跡に残ったものも大切に生かしながら描いていくそう。

「もうひとつの世界が自分の内にあります。自分が見たり行ったり経験したこと、考えたことなどが、
音や形や景色として蓄積され、いつの間にか在る世界です。
10代後半ぐらいからずっとその景色と一緒に歳を重ねてきていて、 絵を描く時だけでなく、
つらくて苦しい時とかもそこに心を置きます。作る(描く)時はそこにあるのが当たり前という感覚で制作しています」

陶板にレリーフ、ドローイング、漫画と、今回の個展だけでも
一見同じ作家さんが作りだした作品とは思えないほどの多様な表現をされた山口さんですが、
その根っこはすべて内側に広がる世界へとつながっているのですね。

水谷さんとの二人展をきっかけにレリーフ制作への興味もますます高まってきたとか。

「わたしの中では絵を描くのが一番大切で、切り離せるものではないけれど、
いろんな工程を経て作り上げていく土のレリーフ制作はとても新鮮でした。
すごく楽しかったです。 というか、無心でした。
これからも制作のメインは絵を描くことだけど、やりたいことのひとつとして、自分の窯でレリーフやタイルを焼くというのがあります」



幅広い表現活動の中にも山口さんなりのブームがあって、一定の期間は同じ表現だけで制作されているそう。
昨年は、今回の二人展「風を待つ」のために陶板作品を中心に手掛けてきたので、今年は漫画を中心に打ち込んでいきたいとのこと。
自主制作漫画『水辺のできごと』は、2021年第 24 回文化庁メディア芸術祭マンガ部門 審査委員会推薦作品に選出されました。

「昔からセリフのない漫画や短編を描いたりしていましたが、ストーリーやセリフがちゃんとある漫画はなかなかできませんでした。
初めて完成させることができた作品が『水辺のできごと』なんです。
頭の中で描いている物語がたくさんあるので、今年は具体的に形にしていこうと思います。
でも、生活する中で新しいことに出会ったり、他に夢中になってしまうことがあったら、流れに身をまかせます。笑」




風の向くまま、気の向くまま、なににもとらわれずに
手を動かさずにはいられない“手まぜ”の気質で作品を生み出していく山口さん。
LABORATORIOにて1月21日(金)からはじまった山口愛 水谷智美 二人展「風を待つ」では、
山口さんが絵付けし、水谷さんが焼成した陶板作品を中心に、陶額作品やレリーフなど、さまざまなかたちの作品がならびました。

※個展の模様はこちらをご覧ください。


1月28日(金)からは、オンライン個展で一部の作品をご紹介します。
山口さんの内側にある世界から引き出された物語をぜひご覧ください。

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山口愛(やまぐち めぐみ)
イラスト、漫画、壁画、板絵、絵馬、陶板など、
表現の支持体を限定せず制作している。
自主制作漫画『水辺のできごと』が
2021年第 24 回文化庁メディア芸術祭マンガ部門 
審査委員会推薦作品に選出される。


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